ゴルフスイングは一見すると毎回同じような動作を繰り返しているように見えますよね。
この動作の変動性は、スポーツ科学の世界では「motor variability(運動変動性)」と呼ばれ、運動学習やパフォーマンスの安定性との関連が注目されています。近年では、「optimal movement variability(最適な動作の変動性)」という考え方も広がってきていて、適度な変動性があることで、選手はさまざまな環境や状況に柔軟に対応できるとされています。たとえば、同じクラブでも風向きや地面の硬さが違えば、打ち方を微調整する必要がありますよね。ここで大事なのが、“あらかじめ柔軟なスイングの幅を持っている”こと。動作が固定されすぎていると、ちょっとした変化にも対応できず、ミスショットに繋がってしまうこともあります。
動作の変動性は、脳と身体の協調的な働きの賜物です。神経科学の研究では、脳が一つの動作を実行する際に、複数の神経経路を使って指令を出していることが分かってきています。この神経回路の柔軟性が、身体の動きに微妙な違いを生み出し、結果として変動性が生まれるわけです。けれども、この変動性はただの“ブレ”ではなく、環境に応じて適切な動作を選び直すための調整メカニズムだと考えられています。
たとえば、スイングの最中にバランスを崩しそうになったとき、人間の身体は無意識のうちに筋肉の使い方や重心の位置を調整して、スイングを成立させようとします。このときにも変動性が働いていますし、それがうまく機能している人ほど、ショットの再現性が高くなる傾向にあるんです。実際、動作の変動性が低すぎると、動きが硬直してしまい、少しでもズレが生じるとパフォーマンスが大きく低下するという研究報告もあります。
では、この動作の変動性をどうやって鍛えたり、活用したりすればいいのでしょうか?ひとつのポイントは、練習環境の「多様性」を意識することです。毎回同じ条件、同じ打ち方で練習するのではなく、ライの角度を変えたり、風のある屋外で練習したりすることで、身体はその都度異なる動作パターンを学習し、適応の幅が広がります。これを「変動練習(variable practice)」と呼びますが、これは運動学習の研究でも効果が認められていて、長期的に見たときに安定したパフォーマンスを実現しやすいとされています。
さらに、動作の変動性を活かすには、身体そのものの柔軟性や安定性も不可欠です。特に重要なのが体幹の安定性で、これがないとスイング中に不要な動きが出てしまい、変動性が「ノイズ」になってしまう可能性があります。つまり、変動性は“整った身体”があってこそ“意味のある変動”になるということです。筋力トレーニングや柔軟性向上のエクササイズはもちろん、バランストレーニングや反応速度を高めるような動作トレーニングも有効です。
たとえば、フィジオ福岡では、ゴルファー一人ひとりの身体の状態に合わせて、動作の変動性を高めるトレーニングやコンディショニングが行われています。体幹の筋力を高めることで、動作の中心軸が安定し、肩や腕など末端の動きに自由度が生まれます。その自由度こそが、状況への適応力、つまりパフォーマンスの安定につながっていくのです。
最終的に目指すべきは、“どんな状況でも安定したスイングができること”です。それは一つの固定された動作を完璧に再現することではなく、変動性という柔軟性をもって適応し続けることです。環境に応じて動きを調整できる力を身につけることこそが、ゴルフのスコアアップや飛距離向上に直結するのです。