福岡の総合パーソナルジムPHYSIOのHPはこちら

飛距離を上げるための重心の上下動と正確性のトレードオフ

ゴルフスイングにおいて近年注目されているのが、上下方向の重心移動、すなわちトップでの沈み込みとインパクトにかけての伸び上がり動作です。この動きは地面反力を効率的に利用する手段として捉えられており、多くのトッププロが取り入れている一方で、タイミングの難しさや正確性の低下というリスクも抱えています。飛距離と正確性というトレードオフの観点から、この上下動の役割について科学的に整理してみましょう。

まずスイング中に身体を沈み込ませることで得られる利点について考えます。沈み込みとはトップで膝や腰をアドレス時よりも低くする動作であり、このとき主に下肢筋群が伸張性収縮を伴って張力を蓄えます。これはジャンプの予備動作と似たメカニズムであり、伸び上がり動作によってこの張力を解放することで大きな力を発揮できます。物理学的に見ると、この動きによって得られるエネルギーは重心の位置エネルギー変化として定量化できます。たとえば、体重75kgのゴルファーが重心を2cm沈み込ませてから元の位置まで戻った場合、E = mgh = 75 × 9.8 × 0.02 ≒ 14.7ジュールのエネルギーを生み出していることになります。このエネルギーの一部はクラブヘッドに伝わり、ヘッドスピードの向上に寄与すると考えられています。

実際、垂直方向の地面反力の変化とクラブスピードとの関係についての研究も存在します。McNally(2020)は地面反力の最大値が高いゴルファーほど、クラブヘッドスピードが高い傾向があると報告しています。これは伸び上がり動作を通じて地面を強く押すことが、クラブの加速につながることを示唆しています。さらにジャンプに近い動作を意図的に取り入れるスイングモデルでは、伸び上がりによって体幹の回転と垂直反力の合成を行い、結果としてボール初速を高めることが狙われています。

しかしながら、この上下動には大きな代償もあります。重心が上下することでスイング軌道の高さが変化しやすくなり、インパクト位置の再現性が低下するリスクがあります。とくにインパクト直前で急激に伸び上がると、シャフトのしなり戻りのタイミングが変化し、フェースの向きや当たりどころにズレが生じる可能性があるのです。また上下動が大きくなるほど、クラブがライ角通りに接地しにくくなるため、ヒールアップやトゥダウンなどのミスヒットを誘発することもあります。特に体幹の動きと下肢の連動が不十分なアマチュアにとっては、飛距離を追求した結果として、トップやダフリといったミスの頻度が高まる懸念もあります。

このように上下動を使った飛距離増加のアプローチは、力学的には有効である一方、運動制御の難しさが伴うのです。理想的には、インパクト直前までに地面反力を使い切り、その反動として体が浮き上がる「結果としてのジャンプ」が望ましいとされています。これは、Watkinsら(2021)の研究でも示唆されており、ジャンプを目的とするのではなく地面を押した結果として浮き上がるべきだと述べられています。つまりジャンプしてから打つのではなく、打ち終えた後にジャンプしてしまうくらいのタイミングが効率的ということです。

また上下動を効果的に活用するには、下肢筋力や体幹の安定性が不可欠です。特に股関節周囲の筋力とバランス感覚が重要であり、沈み込みと伸び上がりの速度をコントロールできる能力が、精度と飛距離の両立に関与します。プロゴルファーではこの動きが無意識下で自動化されており、毎回ほぼ同じタイミングでの伸び上がりとインパクトが実現されていますが、一般アマチュアではその再現性の低さが課題となります。

飛距離を追求する上で上下動を取り入れることは有効な手段ではありますが、それが正確性を犠牲にする可能性があることを理解しなければなりません。トレーニングや身体能力が追いついていない状態でこの動作を真似すると、かえってパフォーマンスを落とすリスクもあるため、段階的に導入し、筋力・バランス・リズムの向上とともに活用していくことが推奨されます。

関連記事

営業時間


平日 10:00 ~ 22:00
土日祝 10:00 ~ 20:00
※休館日は不定休
専用駐車場はありませんので近隣のコインパーキングをご利用ください。

RETURN TOP
タイトル タイトル