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ゴルフと脳の可塑性とボディスキーマ

ゴルフというスポーツではボールに触れるのはクラブであり、実際に自分の身体がボールに直接触れるわけではありません。それなのに、クラブヘッドを正確に動かし、狙った方向にボールを飛ばすためには、繊細な身体操作が必要になります。そのためには「自分の身体が今どこにあって、どのように動いているのか」を正確に認知できていることが非常に重要です。ここでカギになるのが「身体図式(ボディスキーマ)」という概念です。

身体図式とは、私たちが自分の身体を「感じている」構造のことです。これは目で見るだけではなく、皮膚や筋肉、関節、内耳からの情報を統合して「今、腕はここにある」「背中がこう曲がっている」というイメージを脳内に構築している仕組みです。最初にこの考え方を体系化したのが、イギリスの神経学者であるヘッドとホルムズで、視覚や平衡感覚、体性感覚といった情報をもとに、脳の中に「内的な身体の地図」を作っていると考えました。

これに加えて、カナダの神経外科医ペンフィールドが行った有名な研究があります。彼はてんかんの手術中、患者の脳の感覚野を電気刺激して、どの部分がどの身体部位に対応しているかを調べました。これによって、大脳皮質には体の各部が地図のように再現されていることがわかり、「ホムンクルス」という人体地図が作られました。これは、脳が身体をどれだけ精緻に認知しているかを示す象徴的な図です。

しかし、こうした身体認知は視覚だけで行っているわけではありません。特に重要なのが、筋肉や腱、関節から送られる「固有感覚」と呼ばれる情報です。これがあるからこそ、目を閉じていても腕の位置を感じたり、力の入れ具合を調整できたりするのです。もしこの固有感覚が失われてしまった場合、自分の身体の動きがわからなくなり、姿勢の維持や運動の制御が困難になります。実際、神経障害によって固有感覚が消失した患者は、手足が動いていることさえ感じられなくなることがあります。

このように、身体図式が崩れると「自分が自分である」という感覚、すなわち「身体の主体感」にも影響を与える可能性があります。アイデンティティの一部が損なわれるというと少し大げさに聞こえるかもしれませんが、実際、脳の損傷や感覚の障害によって「自分の腕が自分のものに感じられない」と訴える症例もあります。

では、ゴルフにおいてこの身体図式がどう関係してくるのでしょうか? たとえばスイング中、肩や腰、腕、手首の動きがどのタイミングでどう連動しているかを正しく感じ取れていないと、スイング軌道がぶれてしまったり、タイミングがずれたりします。つまり、身体図式が正確であることが、スイングの再現性や安定性に直結するわけです。

そしてもう一つ重要なのが、脳の「可塑性(plasticity)」です。これは、脳が経験に応じて変化し、神経回路を再構築していく性質のことです。練習やトレーニングによって運動が上達するのは、この可塑性によるものです。ところが、この可塑性は正しい動きだけでなく、「間違った動き」も覚えてしまうという落とし穴があります。

たとえば、身体図式が乱れたまま、視覚に頼ってスイングを繰り返していると、外見的にはスイングができているように見えても、脳内のボディスキーマは適切に変化していません。すると、選手本人には「動きがしっくりこない」「タイミングが合わない」といった違和感が残ります。これは、固有感覚に基づく身体知が再構築されていないためで、表面的な運動機能が回復しても、感覚統合が伴っていない状態と言えるでしょう。

だからこそ、運動学習の初期段階では、視覚情報だけに頼らず、固有感覚を重視したトレーニングを行うことが重要になります。たとえば、目を閉じた状態でのスイング感覚の確認や、ゆっくりとした動きの中で関節の位置や筋肉の伸張感を意識する練習が有効です。こうしたプロセスを通じて、自分の身体を内面から感じ取り、その動きを脳にしっかりと記憶させていくことで、真の意味での「運動制御」が可能になります。

結局のところ、「自分の身体を外側と内側の両方から知ること」が、正確な身体操作や安定したパフォーマンスにつながるということです。そしてそのためには、単にスイングフォームを真似るだけでなく、感覚と動きの一致を高めるようなトレーニングが求められるのです。これはゴルフだけでなく、すべてのスポーツに通じる「身体知」の本質だといえるでしょう。

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