ゴルフのパッティングというのは、一見するとただボールを転がすだけの動作に見えるかもしれません。でも実際は、距離感、方向、打ち出し角度、そして感覚的な要素が複雑に絡み合っていて、非常に繊細な技術が求められるプレーなんです。その中でも、「目と手の利き」、つまりどちらの目や手が優位なのかがパッティングに影響を与えるかどうかというのは、以前からゴルフ界で議論されてきたテーマの一つです。
そもそも人間には、「利き目」という概念があります。たとえば、右手が利き手でも、実は左目が優位というケースもあります。これを「クロス・ドミナンス(交差利き)」と呼ぶのですが、実はこれがゴルフのパッティング時にどのような影響を与えるのか、これまであまり深く研究されていなかったんです。多くの研究では、立ったままの自然な視線、いわゆる「プライマリー・ゲイズ」の状態での利き目を測定していましたが、実際のパッティングって、腰を曲げて頭を下げた姿勢で行われますよね。つまり、目の使い方も、視覚の感覚も大きく変わるわけです。
今回紹介する研究では、その「通常の視線」と「パッティング時の視線」の両方で目の利きを調べ、さらにそれがパッティングの成績にどう影響するのかを検証したんです。被験者は右打ちのゴルファー31名で、アマチュアからトッププロまで幅広い層が対象になっていました。興味深いのは、その中には手の利きが左の人や、どちらの手が利き手なのか曖昧な人も含まれていたという点です。
研究から得られた大きな発見は4つあります。まず一つ目に、普段の視線とパッティング時の視線では、利き目が変わることがあるということ。これはかなり驚きですよね。パッティング姿勢では視線が下向きになり、顔の角度も変わります。このことで、いつも使っている利き目と違う目が優位になることがあるんです。つまり、「パッティング中に見えている世界」は、普段とは微妙に違う可能性があるんです。
二つ目は、パッティング時には目の利きが弱くなる傾向があるということ。これは視野が限定され、より正確な視覚情報を得るために、無意識に両目をバランスよく使おうとすることが関係しているのではないかと考えられています。たとえば、視野の中心ではなく周辺視を活用しようとしたり、深度感覚を補うために両眼視が強調されたりすることがあるかもしれません。
三つ目に分かったことは、目の利きと手の利きには直接的な関係がないという点です。多くの人が、右利きなら右目が利き目だと思いがちですが、実際にはそうとは限らず、むしろ左右が逆の人も少なくないんです。だからこそ、自分の「アイ・ドミナンス(視覚優位)」をちゃんと調べて知っておくことは、プレーに大きな影響を与える可能性があるんです。
そして最後の四つ目。目と手の利きが一致しているかどうかは、パッティングのスキルには直接関係しないということ。ただし、目の利きそのものが、パッティングの成功率には影響している可能性が示唆されました。つまり、どちらの目でターゲットを見ているかによって、方向感やボールの転がし方に違いが出る可能性がある、というわけです。
この結果は、過去の研究ともリンクしています。たとえば、Mannらの研究(2011)では、上手なゴルファーほど視線のブレが少ない、つまり視線が安定していることが明らかになっています。また、Vickers(1996)の有名な「クワイエット・アイ(静止視)」の研究では、プロゴルファーはストローク直前にターゲットを長く静かに見つめる傾向があり、この視線の安定性が成功率に強く関係しているとされています。
こういった研究を踏まえると、「どちらの目で、どのようにターゲットを見ているか」が、実際のパッティングにおいて非常に重要な要素になることがわかってきます。では、これらの知見をどう活かせばいいのでしょうか?
まず、自分がどちらの目が利き目なのかを知ること。これは簡単なテストで確認できます。たとえば両手で小さな三角形を作り、遠くの物体を片目ずつ交互に見て、どちらの目の時にその物体が中心に見えるかで判定できます。そして、普段の姿勢だけでなく、実際にパッティング姿勢をとった時にも同様にチェックしてみてください。そこで利き目が変わるなら、プレー中の視覚情報の取り方も変わっているかもしれません。
次に、パッティング中の視線の安定性にも注目してみましょう。パットの前にボールとカップを何度も見比べてしまう癖がある人は、少しの練習で視線を安定させることで精度が上がる可能性があります。これはまさにクワイエット・アイの活用です。
最後に、ボールの位置やアライメントを見直してみるのも有効です。利き目のバランスによって、ターゲットの見え方や真っ直ぐの感覚がズレていることがあるため、自分にとって最も「自然に真っ直ぐ見える」位置を探ることがパフォーマンス向上につながります。
パッティングは感覚のスポーツですが、その感覚を形作っているのは、視覚という大きな要素です。目の利きが変わること、そしてその使い方によってプレーが変化する可能性を知っておくことで、より精度の高いパッティングが目指せるのではないでしょうか。ゴルファーにとって、自分の目を知ることは、大きな武器になるはずです。