P10システムにおけるP3は、上肢が折りたたまれてレバーが短縮し、同時に胸郭(胸椎)を中心とした回旋が“溜まっていく局面”として捉えると理解が整理できます。ご提示の通り、P3では胸郭が概ね45〜60度ほど回旋し、この回旋は単一椎間の大きな動きではなく、胸椎椎間関節における小さな軸回旋の総和として実現されます。胸椎は椎間関節面の配向が腰椎と異なり、回旋方向の自由度を比較的許容します。一方で胸郭は肋骨と胸骨による“輪”の構造を持つため、単なる関節可動域ではなく、弾性要素を含む複合体として回旋を受け止め、反発力を生みやすいのが特徴です。P3の回旋は、まさにこの「胸郭の弾性を含む捻転」を利用して、次局面に向けたエネルギーの貯金を形成します。
運動学的には、P3の胸郭回旋は下位セグメントが先行して生まれた角運動量を、上位へと損失少なく受け渡すための“通過点”です。ゴルフスイングの三次元解析研究では、骨盤→胸郭→上腕(腕)→クラブという順序で角速度ピークが現れる、いわゆるキネマティックシークエンスが熟練者ほど安定して観察されます。P3ではピークを出すというより、骨盤回旋の先行に対して胸郭回旋が適切に遅れながら追従し、骨盤—胸郭間の相対回旋、いわゆるセパレーション(X-factorに近い概念)を“必要十分に確保している状態”が重要になります。ここでセパレーションが作れないと、上肢や肩甲帯が先に回ってしまい、運動連鎖が近位から遠位へ移る前に遠位が先行するため、加速局面での余地が減ります。逆に過剰に作りすぎると、胸郭の安定性を深層筋が支えきれず、肋椎関節や椎間関節の微小なズレを大きくして、タイミングの遅延や代償運動(腰椎回旋の増大、側屈の過多、早期伸展など)を誘発しやすくなります。

筋機能の面では、外腹斜筋と内腹斜筋は“対角線のカップリング”で胸郭回旋を生みます。右打ちでバックスイング方向の胸郭回旋が入る局面では、片側の外腹斜筋と対側の内腹斜筋が協調し、胸郭を回しながらも腹圧と体幹剛性を維持します。ここで重要なのは「回す筋」と「止める筋」が同時に働くことです。回旋筋群や多裂筋は、胸椎を単に回すというより、椎骨間の剪断や過度な椎間運動を抑えつつ、回旋の“解像度”を上げる役割を担います。P3で胸郭回旋が大きく見えても、深層筋による微細制御が効いていれば、回旋の中心がブレず、切り返しでの再現性が上がります。つまりP3の胸郭回旋は「大きく動く」よりも「同じ軌道で捻れる」ことが性能を左右します。

さらに広背筋は、上肢と体幹をつなぐ“力の伝達ベルト”として働きます。広背筋は胸腰筋膜を介して骨盤帯とも連結し、肩甲帯の位置と体幹回旋の同調に影響します。P3で右肘が屈曲してレバーが短くなると、上肢の慣性モーメントが下がって回しやすくなる一方、胸郭回旋と上肢の位置関係が崩れると、広背筋が本来担う「体幹で作った回旋を上肢へ渡す」機能が途切れます。するとトップ付近で腕が“置き去り”になったり、逆に腕が先行して胸郭の回旋が止まったりして、切り返し以降の近位—遠位シークエンスが乱れます。P3はこの意味で、胸郭回旋と右肘屈曲が単独で良い悪いを決めるのではなく、両者が噛み合って「体幹主導の回旋を保ったまま、遠位を加速させる準備ができているか」を評価すべき局面です。
結局のところ、P10のP3における胸郭回旋は、回旋可動域の大きさの競争ではなく、骨盤先行に対する胸郭の遅れ、深層筋による椎間安定、斜腹筋群による捻転の貯金、広背筋を介した上肢との結線、これらが同時に成立して初めて“使える捻り”になります。P3で胸郭が45〜60度回るという数字は目安ですが、本質はその回旋が次の局面でスムーズに解放され、近位から遠位へのエネルギー伝達が途切れずに加速へ移れるかどうかです。P3を科学的に見るほど、ここは派手な形を作る場所ではなく、運動連鎖の精度を上げるための「捻りの貯金」と「解放の準備」を同時に整える局面だと位置づけられます。