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P4で「溜め」を作る─体幹SSCと弾性エネルギー貯蔵を“飛距離”に変える科学

P10システムのP4は、いわゆるトップに相当する局面ですが、ここを「形」として止めてしまうか、「次の加速のための準備段階」として成立させるかで、その後のダウンスイングの質が別物になります。ご提示いただいたSSC(ストレッチ・ショートニング・サイクル)の観点から見ると、P4は“伸張して蓄える”局面であり、ここで作られた弾性エネルギーの貯蔵と放出の設計が、クラブの走りや再現性、そして腰部の安全性まで決めてしまいます。

まず前提として、ゴルフの体幹は単純に「筋肉で捻って戻す」運動ではありません。多くの海外研究で、ダウンスイング序盤に骨盤が先行して回り始め、胸郭(上胴体)はわずかに遅れて追随する、いわゆる運動連鎖が繰り返し示されています。この時間差があることで、胸郭‐骨盤間に追加の回旋差が生まれます。ここが俗に言う“Xファクター・ストレッチ”で、SSCのスイッチを入れる瞬間です。つまりP4そのものというより、P4から切り返しに入る「移行の質」で、体幹の弾性が働くかどうかが決まります。

では、どこに弾性エネルギーが蓄えられるのか。体幹の回旋筋群、とくに腹斜筋群(外腹斜筋・内腹斜筋)は、単に回旋トルクを出すだけでなく、筋腱複合体として“伸ばされてから短縮する”状況を作りやすい構造を持っています。ここで重要なのが直列弾性要素(SEC)という考え方で、腱そのものだけではなく、筋の腱膜(アポニューローシス)や結合組織、胸腰筋膜のような張力伝達構造が、ばねのようにエネルギーを一時的に預かる可能性がある点です。近年は「筋の弾性をどこまでSECと呼べるのか」は慎重に扱うべきだ、という議論も強く、測り方次第で解釈が変わるのも事実です。それでも現場感として、P4で“体幹の皮膚の下に張りが生まれ、切り返しでほどけるように回る”感覚が出る選手は、筋力任せではなく弾性に仕事をさせています。これは偶然ではありません。

弾性エネルギー貯蔵量は、ご指摘の通り「伸張度」と「伸張速度」に依存します。P4で骨盤と胸郭の差をただ大きくすれば貯蔵が増える、という単純な話ではなく、切り返しで生まれる“速い伸張”と“素早い短縮への移行”がセットになって初めてSSCとして効率が上がります。移行が遅いと、せっかく張った弾性は熱として散り、筋は等尺的に固まり、クラブの加速は鈍くなります。逆に移行が速すぎても、準備(予備緊張)がないと張力が乗らず、ただの急ぎになって再現性が落ちます。P4では「止めない、急がない」という一見矛盾したコントロールが必要で、トップは“静止点”ではなく“方向転換の節”として扱うのが合理的です。

ここで厄介なのが「過度な回旋差」の問題です。回旋差が増えれば増えるほど、弾性の材料が増えるように見えますが、体幹の回旋可動性は胸椎と股関節に依存します。胸椎が硬いまま、骨盤を止めて肩だけ深く回すと、回旋差の実態が腰椎の捻れや側屈混じり(いわゆる“クランチ”)になりやすく、椎間関節や椎間板、周囲筋の剪断ストレスが跳ね上がります。すると「溜め」は作れたように感じても、実際は弾性を蓄えたのではなく、腰部に負担を前借りしただけ、ということが起きます。筋損傷リスクが増えるというのは、単に腹斜筋が伸ばされすぎるだけでなく、代償として腰部に不自然な負荷が乗ることも含みます。

ではP10のP4で、どう“良い伸張”を作るのか。鍵は、回旋差を「腰で稼がない」ことと、腹斜筋を“伸ばされるだけの素材”にせず“張力を受け渡す装置”として使うことです。具体的には、骨盤は完全に止めるのではなく、股関節内旋や骨盤の適度な回旋を許しつつ、胸郭の回旋は胸椎で作り、肋骨と骨盤の相対位置を保ちます。ここが崩れて肋骨が開き、反りが増えると、腹斜筋は伸張というより働きどころを失い、切り返しで一気に固めに行ってしまいます。P4の“張り”は、反り腰の緊張ではなく、みぞおちから骨盤にかけて斜めに走るラインが均等に張る感覚に近いはずです。

さらに、SSCを成立させるには「予備緊張(プリテンション)」が欠かせません。腹斜筋は回旋筋であると同時に体幹剛性を作る筋でもあるため、P4で完全に脱力してしまうと、切り返しで剛性を作り直す時間が必要になります。理想は、P4で呼吸とともに腹圧が保たれ、胸郭が骨盤の上に“乗ったまま”回旋している状態です。そこからダウンスイングで骨盤が先行すると、腹斜筋群と胸腰筋膜の張力連鎖が一瞬伸張され、短い移行で反転できる土台が生まれます。ここが決まると、クラブを腕で振り下ろすのではなく、「体幹の反転が腕とクラブの落下を連れてくる」形になり、結果的にインパクト直前でクラブが走ります。

まとめると、P4で作るべきなのは“捻り量の最大化”ではなく、“弾性が働く条件の最適化”です。伸張度は適正範囲に収め、伸張速度と移行時間を設計し、胸椎と股関節で回旋を分担し、腹斜筋を張力伝達として使う。これができると、飛距離は「頑張って捻った分」ではなく「自然に戻る分」で伸びていきます。そして同時に、腰を守りながら再現性も上がります。P4はトップではなく、加速のスイッチを入れる“溜めの装置”です。ここを科学的に整えることが、P10のP4を本当の武器にしてくれます。

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