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ゴルフとTFCC損傷

ゴルフは一見すると手関節への負荷が少ないスポーツに思われがちですが、実際には手首、特に尺側(小指側)への繰り返しの負荷が蓄積しやすいスポーツであり、三角線維軟骨複合体(Triangular Fibrocartilage Complex:TFCC)損傷はゴルファーにとって無視できない障害の一つです。特にスイング時におけるインパクト直前からフォロースルーにかけての動作では、手関節尺側に圧縮力や剪断力が集中しやすく、これがTFCCに対して慢性的なストレスとなって蓄積していきます。

TFCCは尺骨と手根骨との間に位置する複合的な構造であり、三角線維軟骨や尺側側副靱帯、遠位橈尺関節の掌側および背側靭帯などから構成されます。これらの組織は遠位橈尺関節(Distal Radioulnar Joint:DRUJ)や橈骨手根関節の安定性を維持する重要な役割を担っており、特にゴルフスイングのような高速・高負荷の回旋動作を行う際には非常に重要な支持構造となります。ゴルフスイングではテークバックからダウンスイングにかけて橈尺関節の回内・回外運動が強調されますが、このときにTFCCに牽引や圧縮、あるいは回旋トルクが集中することが確認されています(Palmer, 1981)。

TFCC損傷はゴルファーの間でも比較的高頻度に認められ、特に初心者やフォームが安定していない選手においては、クラブヘッドが地面に強く当たる「ダフリ」などのインパクトエラーや無理にリストを返す動作によって手関節尺側に過剰な負荷がかかり、TFCCに微小な損傷が生じるとされています。反復するグリップ動作やボールコンタクト時の衝撃により、TFCCは慢性的に摩耗し、変性や断裂を引き起こすリスクが高まります。Mageeら(2004)はMRI検査により、スポーツ選手において症状が軽度であってもTFCCに構造的変性が起こっていることがあると報告しており、症状の有無だけでは診断が難しい場合も多いと指摘しています。

ゴルフにおいて特に注意が必要なのは、グリップの強さやクラブの長さ・重量、スイング時のリリースのタイミングです。これらが不適切な場合、手関節尺側に対する負担が急激に増し、TFCCに慢性損傷を引き起こすことになります。また利き手である右手(右打ちの場合)にTFCC損傷が多く認められる傾向にあり、これはスイング時に右手の手関節尺側がインパクトを吸収する構造的な役割を担うことと関連しています。ある臨床報告ではゴルファーの手関節障害のうち、尺側部の疼痛が主訴で来院するケースの多くがTFCC損傷に起因していたとされ、競技レベルに関係なく、スイング頻度の高い選手ほど損傷リスクが高いことが示されています(Lee.2012)。

診断にはまず病歴の聴取と徒手検査が重要となり、尺骨茎状突起周囲の圧痛、遠位橈尺関節の不安定感、回外・回内運動時のクリック音や疼痛が確認されることがあります。画像診断としては通常のX線撮影では異常を確認できないことが多く、MRIや関節造影、場合によっては手関節鏡視下による評価が行われることもあります。TFCCの損傷は視覚的に明瞭な異常を捉えることが難しく、選手自身が「違和感」や「力が入らない」「押し込みに痛みが走る」などの主観的訴えをすることが初期の重要なサインになります。

治療は症状の程度によって保存療法と手術療法に分かれます。保存療法では手関節の安静、テーピングによる安定化、前腕回内・回外筋群のバランス回復を目的としたリハビリテーションが中心となります。急性期には非ステロイド性抗炎症薬の投与も行われ、痛みの管理と損傷部位の保護が重視されます。一方関節の不安定性が顕著であったり、保存療法に反応しない症例では関節鏡下でのTFCC縫合やデブリードマン(変性組織の除去)が選択されます。術後のリハビリでは、スイング動作に特化した可動域訓練や筋機能の再教育が不可欠であり、復帰までには一般的に3~6ヶ月を要するとされています。

再発予防の観点からはスイングフォームの見直しが極めて重要です。とくに手首の過度な可動やダフリによる衝撃の抑制、さらにはクラブの選定やグリップ圧の調整も含めた包括的な介入が求められます。また、近年ではバイオメカニクスの視点からスイング時の手関節動作を三次元的に解析する研究も進められており(Kwon.2013)、TFCCへの負荷を最小限に抑えるスイングの在り方が模索されています。

ゴルフは生涯スポーツである一方で、繰り返しのスイングによる慢性障害のリスクが高い競技でもあります。TFCC損傷はその典型例であり、競技者自身がそのメカニズムやリスク要因を理解し、早期の対応を取ることが競技寿命の延伸につながるといえます。ゴルファーにとって手関節は単なる支点ではなく、力を伝える「最後の関節」として極めて重要な役割を果たしているため、その健康管理と障害予防は、スコア向上と競技継続の両面において不可欠な要素といえるでしょう。

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