ゴルフスイングにおける「手打ち」は、体幹が使えていない結果として説明されることが多いものの、その実態は単純な「下半身や体幹が止まっている」という状態ではありません。むしろ多くの場合、問題の本質は逆にあります。体幹が安定していないために、胸郭が過剰に、しかも無秩序に動きすぎてしまう。この構造的破綻こそが、手打ちを必然的に引き起こします。
本来、効率的なゴルフスイングでは、骨盤と胸郭は明確な役割分担のもとで協調的に動きます。ダウンスイング初期では骨盤が先行して回旋し、胸郭はわずかな時間差をもって追随します。この時間差によって体幹部には捻転差が生まれ、筋・筋膜系に弾性エネルギーが蓄積されます。このエネルギーは、回転速度とパワーを生み出すだけでなく、インパクトに向けて上肢へ効率よく伝達されるための準備となります。
しかし、この分離運動を成立させる前提条件が、コアの安定性です。コアとは単なる腹筋の強さではなく、腹横筋、多裂筋、横隔膜、骨盤底筋群によって形成される腹圧システムを指します。この腹圧が適切に保たれることで、腰椎と骨盤は安定し、胸郭はその上で「制御された自由」を持って回旋することが可能になります。

コアが機能しない状態では、この土台が失われます。すると胸郭は一体化して固まるどころか、むしろ分節ごとにばらばらの動きを始めます。上部胸郭だけが先に回旋したり、下位肋骨が前方へ開いたまま固定されたり、左右で異なる回旋や側屈が同時に起こったりします。これは柔軟性が高い状態ではなく、運動制御を失った状態です。
この現象はランボペルビックリズムの破綻として理解できます。本来、腰椎・骨盤・胸郭は連動しながらも、それぞれが適切な可動域と安定性を保ちます。しかしコアが安定していないと、腰椎で過剰な代償運動が起こり、その影響が胸郭全体へ波及します。結果として、胸郭は回っているように見えても、力を生み出すための一貫性を失います。
ここで重要なのがリブダウンの概念です。下位肋骨が適切な位置に保たれ、胸郭が過度に拡張していない状態では、腹圧が保持され、体幹の剛性が高まります。逆にリブダウンが成立していない状態では、腹圧は逃げ、胸郭は常に不安定な拡張位となります。この状態では、胸郭は回旋というよりも、伸展や側屈を混ぜた不規則な動きを繰り返し、捻転差を「量として」も「質として」も作ることができません。
体幹内でエネルギーを蓄えることができないと、次に問題となるのが減速です。効率的なスイングでは、インパクトに向けて骨盤や胸郭が段階的に減速し、その運動量が上肢へ受け渡されます。しかし体幹が不安定な場合、身体は回転を止めることができません。減速できない回転は、エネルギーを伝えることができない回転でもあります。
このとき、神経系は合理的な選択をします。体幹から十分なエネルギーが供給されない以上、距離と方向性を確保するために、最も精密に制御可能な部位である腕や手を積極的に使い始めます。これが手打ちです。手打ちは癖でも怠慢でもなく、体幹機能が破綻した状況下で選択された最適解なのです。

一方で、コアが安定し、リブダウンが成立し、ランボペルビックリズムが整うと、胸郭の動きは劇的に変化します。過剰な分節運動は抑制され、骨盤に対して一貫した回旋挙動を示すようになります。胸郭は「自由に動く」のではなく、「必要な方向にだけ動ける」状態となり、捻転差は自然に形成されます。
この状態では、体幹で生まれたエネルギーが減速によって上肢へと伝達されるため、腕が主導する必要はなくなります。結果として、手の介入は意識せずとも減少し、スイングは全身運動として再構築されます。つまり、手打ちが消えるのは腕を矯正したからではなく、体幹が本来の役割を取り戻した結果なのです。
手打ちを本質的に改善するために必要なのは、「体幹を使え」という抽象的な指示ではありません。骨盤、胸郭、コアの安定性、リブダウン、そしてランボペルビックリズムという構造を整えること。その土台ができたとき、手打ちは修正されるものではなく、自然と起こらなくなる現象へと変わります。これはフォームの問題ではなく、身体機能の問題であり、同時にゴルフスイングの本質そのものなのです。