P10システムにおけるP2局面は、ゴルフスイング全体の成否を左右する極めて重要な初期フェーズです。P2とは、テークバック初期においてクラブシャフトが地面とほぼ平行になる局面を指し、この時点で形成されるフェース角やクラブ軌道は、以降のP3、P4、さらにはインパクトまでの運動連鎖の方向性をほぼ決定づけます。多くの場合、P2で観察されるフェース角の開閉は「手首」や「前腕」の問題として語られがちですが、実際にはそれらは結果にすぎず、より近位、すなわち体幹や下肢を含む全身運動連鎖の表出として理解する必要があります。
まず、バイオメカニクス的観点からP2局面を捉えると、ゴルフスイングは典型的な近位から遠位への運動連鎖、いわゆるキネマティックチェーンに基づく運動です。理想的なテークバック初期では、骨盤の回旋開始に対して胸郭が適切に追従し、その相対運動の中で上肢とクラブが「運ばれる」形で動き出します。このとき、肩甲帯は胸郭上で安定しつつも滑走し、上腕骨は肩甲平面上で比較的ニュートラルな回旋位を保ちます。結果として、前腕の回内・回外や手関節の掌屈・背屈は最小限に抑えられ、フェース角はアドレス時の姿勢を大きく逸脱しません。

しかし、P2でフェースが過度に開くスイングでは、しばしばこの近位セグメントの運動が不十分です。代表的なのが胸郭回旋の不足です。胸郭は脊柱、特に胸椎の回旋可動性に依存しますが、現代人に多い胸椎伸展・回旋制限があると、骨盤に対する胸郭の相対回旋量が不足します。この状態でクラブを動かそうとすると、身体は目標方向に対するクラブヘッドの移動量を確保するため、遠位である前腕に代償を求めます。具体的には、右打ちゴルファーであれば左前腕の過剰な回外が生じやすく、解剖学的には橈骨が尺骨に対して外旋する動きが強調されます。この回外は手関節背屈と運動学的にカップリングしやすく、結果としてクラブフェースは早期に開いた状態を示します。
運動学的に見ると、この現象は自由度の再配分として説明できます。本来、P2局面では体幹回旋という大きな自由度がクラブ移動の主役となるべきですが、その自由度が使えない場合、神経系は残された自由度、すなわち前腕や手関節に運動を割り当てます。これはベルンシュタインの自由度問題における典型的な代償戦略であり、一見スムーズに見えるスイングでも、内部的には非効率な制御が行われていることを意味します。この段階で生じた代償は、P3以降で修正することが極めて困難です。なぜなら、P2で形成されたフェース角とクラブの慣性モーメントは、その後の運動方程式の初期条件として作用し、システム全体を拘束するからです。
さらに下肢の役割も見逃せません。P2でフェースが開きすぎるケースでは、右股関節への荷重移行の遅延が頻繁に観察されます。理想的なテークバック初期では、重心はわずかに右側へ移動し、右股関節は屈曲・外転・内旋を伴いながら骨盤を支持します。この荷重受容が遅れると、骨盤の回旋開始そのものが不安定となり、上位セグメントである胸郭の回旋も抑制されます。結果として、体幹主導の運動連鎖が成立せず、再び前腕主導のクラブ操作に依存することになります。解剖学的には、右股関節周囲の深層外旋筋群や中殿筋の機能低下が、このような荷重遅延と関連することが多く、単なる「腕の問題」ではないことが明確になります。

P10システムの視点で重要なのは、P2を「形」ではなく「プロセス」として評価する点です。フェースが開いているか閉じているかは結果であり、その背後には体幹回旋、骨盤制御、股関節荷重、肩甲帯の安定といった複数の要素が時間的・空間的に統合された運動連鎖が存在します。P2でフェース角が安定しているスイングとは、手首を固めたスイングではなく、近位セグメントが十分に機能した結果として、遠位セグメントが余計な仕事をしなくて済んでいる状態だと言えます。
P2局面におけるフェース角の乱れは、局所的な技術ミスではなく、全身の運動連鎖の破綻を示すシグナルです。胸郭回旋の不足や股関節荷重の遅延といった近位の問題を放置したまま、前腕や手首の操作で修正しようとすると、P3以降でさらなる代償が連鎖的に生じ、再現性の低いスイングへとつながります。P10システムにおけるP2の本質は、フェース角そのものではなく、フェース角に「現れてしまう」身体全体の運動学的選択を読み解くことにあります。その視点を持つことで、初めて再現性と効率性を兼ね備えたスイング構築が可能になるのです。