ゴルフスイングをP10システムで捉えた場合、P3はバックスイング中盤に相当し、クラブが地面とほぼ平行、もしくはそれに近づく局面です。この段階は一見「助走」のように見えますが、実際にはその後の切り返しからインパクトに至る運動連鎖の質をほぼ決定づける、極めて重要な準備局面といえます。とくに近年のバイオメカニクス研究では、このP3付近ですでに地面反力ベクトル(Ground Reaction Force:GRF)が明確な役割を果たし始めていることが示されています。
研究報告によると、P3前後における右脚の垂直方向の地面反力は、体重の約1.1~1.2倍に達するケースが多く観察されています。これはジャンプや着地ほど大きな力ではないものの、静的立位を大きく上回る値であり、身体が単に回旋しているのではなく、すでに「地面を使った運動」に移行していることを意味します。この垂直成分を含むGRFは、足部から下腿、大腿を介して右股関節へと伝達され、さらに骨盤、脊柱へと力学的エネルギーを供給します。この流れが適切であれば、上体の回旋は筋力依存ではなく、床反力を利用した効率的なトルク生成として成立します。

ここで重要になるのが、右股関節の「受け止め」の質です。バイオメカニクス的には、GRFベクトルが身体の重心線、あるいはそれに近い位置を通過するほど、不要な回転モーメントや剪断力が減少し、安定した回旋トルクが生じます。P3において右股関節が適切に内外旋・屈曲の協調を保ち、骨盤を支持できている場合、GRFベクトルは股関節中心に近い位置を通過し、体幹回旋を「下から支える」形になります。これは股関節外転筋群や深層外旋筋群が等尺性に近い形で働き、関節中心を安定化させている状態と解釈できます。
一方で、右膝が外側へ流れる、いわゆるニーアウトやニーシフトが生じると、状況は大きく変わります。膝が外に逃げることで、股関節中心とGRFベクトルの距離、すなわちモーメントアームが長くなります。その結果、回旋を生むトルクは増大する一方で、そのトルクを制御するための筋活動も過剰に必要となり、関節安定性は低下します。運動学的に見れば、骨盤は過度に水平回旋しやすくなり、胸郭との相対回旋、いわゆるXファクターは一時的に増えるように見えるかもしれません。しかしこの増大は「溜め」ではなく、制御を失った回旋であることが多く、切り返し以降での力の再利用効率はむしろ低下します。
P10システムの観点から見ると、P3はP4以降の伸張短縮サイクルを成立させるための「力学的前提条件」を整えるフェーズです。P3で右脚が適切に地面反力を受け止め、GRFベクトルが安定して体幹へ伝達されていれば、切り返しではその反力を一度減衰させることなく、方向を変えて再配分することが可能になります。これは多くの論文で報告されている、熟練ゴルファーに見られる「早期の床反力利用」と一致する知見です。彼らはトップで力を出すのではなく、トップに至る前段階ですでに力の流れを構築しているのです。

さらに運動学的視点では、P3でのGRFの質は、骨盤と胸郭の角速度のタイミングにも影響します。右股関節が安定している場合、骨盤の角速度は過度に上がらず、胸郭との間に適切な位相差が保たれます。これにより、切り返しで骨盤が先行し、胸郭、上肢、クラブへと順序立てて角運動量が伝達される、いわゆるキネマティックシークエンスが自然に形成されます。逆にP3で不安定性が生じていると、この位相差が崩れ、上半身主導の切り返しや、早期リリースの原因となります。
以上を踏まえると、P10システムにおけるP3は、単なるバックスイングの通過点ではなく、地面反力ベクトルをどのように身体へ取り込み、どの軌道で体幹へ導くかを決定する、極めて戦略的な局面であるといえます。右股関節でGRFを「受け止め」、重心線近くを通過させることは、効率的なトルク生成と再現性の高いスイングの土台となります。この視点を持つことで、P3の意味は形のチェックから力学の設計へと大きく変わり、スイング改善の解像度は一段高い次元へと引き上げられるのです。