P10システムでいうP6は、切り返しで生まれたエネルギーが「クラブの運動」へと翻訳されていく局面です。P4(トップ)からP5(ダウン中盤)で形成された骨盤・胸郭の回転差、いわゆる体幹の捻転とその解放が、P6で急速に腕とクラブへ受け渡されます。このとき右肘が体側に近い位置を保てるかどうかは、単なる“見た目の形”ではなく、運動連鎖の損失を減らし、フェース管理と入射条件を同時に成立させるための構造条件になります。
まず力学的に言えば、右肘の体側近接は「てこの条件」を整えます。上腕を体幹に対して過度に外転させず、肘が体側に収まることで、上腕の内旋・水平内転と前腕の回旋、さらに肘伸展が、同じ回転平面の上で協調しやすくなります。ここで重要なのは、右腕が“振るための棒”ではなく、体幹が作った角運動量をクラブへ受け渡すための「変換機構」だという視点です。肘が外へ逃げると、この変換は長いレバーを無理に回す形になり、肩関節周囲の局所トルクに依存しやすくなります。結果として、体幹から腕へ伝えたいはずの相互作用トルクが分散し、クラブの遅れ(ラグ)の“維持”は見かけ上できても、入射の再現性とフェース角速度の制御が破綻しやすくなります。

次に「力の伝達経路の短縮」という表現は、単なる距離の話に留まりません。体幹回旋で生まれる運動量は、肩甲帯を経由して上腕へ渡されますが、その中継点が不安定だと、伝達は“遅れる”のではなく“揺れる”のです。右肘が体側に近いと、上腕は相対的に内転位となり、肩甲骨は過度な前方突出や上方回旋の暴走を起こしにくくなります。これが回転軸の確保、言い換えるなら「胸郭上で肩甲帯がどれだけ静かに機能できるか」を支えます。P6で軸が揺れる選手は、実は骨盤や胸郭の回転そのものより、肩甲帯の“余計な自由度”が増えた結果として、腕の運動が別系統で立ち上がっていることが多い。右肘の体側近接は、その自由度を“必要なだけに閉じる”役割を担います。
解剖学的・筋活動の側面から深掘りすると、広背筋・大円筋・上腕三頭筋長頭・前鋸筋の協調というあなたの整理は、P6という局面に極めて一致しています。ただしここでのポイントは「強く使う」より「同時収縮の設計」です。広背筋と大円筋は上腕の内転・伸展に寄与し、右肘を体側に“戻す”方向へ働きますが、単純に引きつけるだけでは、肩甲骨が内側へ引かれたり下制し過ぎたりして、結果として腕が詰まり、クラブがアウトサイドへ出る逆効果が起きます。そこで前鋸筋が効いてきます。前鋸筋は肩甲骨を胸郭へ密着させながら、必要な上方回旋と後傾を許容し、肩甲帯の土台を“滑らかに固定する”。固定と言っても剛体化ではなく、胸郭上での安定した運動学的基盤を作るという意味です。この安定があるからこそ、上腕三頭筋長頭が肘伸展に参加しても肩関節が暴れず、肘が体側にありながら前腕と手首の精密なタイミング調整へ移れます。
P6で右肘が外へ出る現象は、しばしば「右手で投げる」ような運動プログラムの早期発火として観察されます。つまり、体幹主導の連鎖がまだ十分に終わっていない段階で、上腕の外転・外旋や前腕の回外が先行し、クラブヘッドの遠心力を早く立ち上げてしまう。短期的にはヘッドスピードが出たように感じますが、ヘッドは加速より先に“半径”を増やし、フェース角速度が増え、打点とフェース向きの誤差が拡大します。海外の近年のスイング研究でも、骨盤・胸郭の回転タイミングと上肢セグメントの角速度ピークの順序、いわゆるキネマティックシーケンスがパフォーマンスや再現性に関わることが繰り返し示されており、P6はまさにその“受け渡しの瞬間”です。右肘の体側近接は、上肢が先走って別シーケンスになるのを防ぎ、体幹で作った回転エネルギーをクラブへ最短で流すための制御変数として扱うのが合理的です。

P10の評価としては、P6で右肘が体側にあること自体をゴールにしない方が、結局うまくいきます。観察すべきは「右肘が体側に“居られる”だけの肩甲帯と胸郭の関係があるか」「居られることで左腕・手首のフェース管理が破綻していないか」「居られる結果としてクラブがプレーン上に落ちているか」です。右肘を固定する意識が強すぎると、胸郭回旋が止まり、右肩が下がり過ぎ、クラブがインサイドに落ち過ぎて、今度は下から煽る入射やプッシュ・ドローの過多に繋がることもあります。良いP6とは、右肘が体側に“静かに近い”まま、胸郭の回旋が継続し、肩甲骨が胸郭上で安定し、前腕回旋と手首角度が過剰に暴れず、クラブが自然にシャロー化している状態です。形は結果であり、結果を支えるのは、体幹の回転継続と肩甲帯の安定、そして広背筋群と前鋸筋を中心とした同時収縮による自由度の制御です。
P6の右肘は、パワーのための“押し手”ではなく、情報とエネルギーを失わずにクラブへ伝えるための“中継点”です。体側近接の価値は、飛距離よりもむしろ、プレーン・入射・フェースの三つを同時に整える再現性の設計にあります。P10評価で右肘を見たとき、そこに見えるのは腕そのものではなく、その選手の運動連鎖の成熟度と、肩甲帯を含む神経筋制御の精度だと捉えると、チェックの解像度が一段上がります。