P10システムのP4、いわゆるトップは「クラブが上がりきった瞬間」に見えますが、運動制御の本質はそこへ至る過程にあります。手元の高さと位置は、上肢だけの話ではなく、胸郭―肩甲骨―上腕骨―肘―前腕という運動連鎖の“最終出力”として現れます。つまり、手元を直そうとして手先の座標だけをいじると、ほぼ確実にどこかの関節が代償します。P4が安定しない、切り返しで詰まる、あるいは肩前面が痛い、といった現象は「手元が悪い」より先に「肩甲骨と上腕骨の協調が破綻している」可能性を疑うべきです。
まず、あなたが提示した三次元座標で整理します。垂直方向(高さ)は肩関節の外転角度と上腕骨の挙上角度に依存しますが、ここでいう“肩関節”は実際には上腕骨が肩甲骨に対して動く角度(肩甲上腕)と、肩甲骨が胸郭上で動く角度(肩甲胸郭)の合算です。水平方向(前後)は、肩甲骨面での外転/内転バランスに強く左右されます。ここが崩れると、手元は「前に出る/後ろに引ける」だけでなく、クラブが立つ・寝る、シャフトがクロスする、などの形で表情を変えます。横方向(体からの距離)は肘屈曲に加えて前腕の回内/回外が関与し、P4での“手元の逃げ場”を決めます。多くの人が肘だけで距離感を作ろうとしますが、前腕の回旋が噛み合わないと、肘を曲げても手元が近づかない、あるいは近づいた代わりにフェース向きが破綻する、というややこしい問題が起きます。

ここで重要になるのが肩甲上腕リズムです。教科書的には「上腕骨2:肩甲骨1」と表現されますが、近年はこの比率が一定ではなく、角度域や課題、個体差で大きく揺れることが分かってきています。つまり“2:1を守る”はゴールではなく、協調が保たれているかどうかを見抜くための目安に過ぎません。ゴルフのP4は、いわゆる真上への挙上ではなく、胸郭回旋を伴う斜め方向の挙上です。ここで肩甲骨が上方回旋に加えて後傾(posterior tilt)と外旋(external rotation)を適切に伴えると、上腕骨頭は関節窩の中で余裕を持ち、腱板や肩峰下スペースに不必要な圧をかけずに“高い手元”が作れます。逆に、肩甲骨の上方回旋が不足したまま上腕骨だけを上げると、インピンジメントに近い状況を自分で作りにいきます。結果としてP4で手元が想定より低くなる、あるいは高さを出そうとして肩がすくむ、肘が外に割れる、前腕で無理に回してフェースを合わせる、といった連鎖的な代償が起こります。
P4の設計で、もう一段“運動制御的”に見るなら、近位固定・遠位運動の原則が上肢にもそのまま当てはまる点です。体幹回旋が成立していないのに腕を上げると、肩甲骨は胸郭の上で安定した土台を失い、上腕骨のコントロールは不安定になります。すると神経筋制御は、関節を守るために同時収縮(co-contraction)を増やします。これは一時的には安定を生みますが、スイングに必要な“しなやかな加速”を奪い、P4での手元位置が固着しやすくなります。さらに相反抑制(reciprocal inhibition)が働きにくくなると、主働筋と拮抗筋の切り替えが遅れ、切り返しでクラブが落ちない、ダウンで腕が突っ張る、リリースが早い/遅い、などの形で表面化します。P4で「形が合っているのに当たらない」人ほど、ここが原因になっていることが多いです。

では、P4で理想的な手元位置を“結果として”出すには何を揃えるべきか。鍵は肩甲骨の自由度を取り戻しつつ、胸郭との協調を崩さないことです。胸郭が右回旋(右打ちならバックスイング)しながら、右肩甲骨は上方回旋・後傾・外旋を複合させ、右上腕骨は外旋を伴って挙上します。この「外旋」が抜けると、同じ高さに見えても上腕骨頭が前上方へ偏り、肩前面の詰まりと手元の前方化を呼びます。反対に外旋を“腕だけ”で作ろうとすると、前腕回外が過多になってフェース管理が破綻します。肘屈曲は手元の距離を作る主役ですが、肘を曲げるだけでは足りず、前腕回内/回外が“肘のたたみ方”を微調整します。P4で手元が体から離れすぎる人は、肘屈曲不足だけでなく、肩甲骨が前傾して上腕が前に逃げているケースが多い。逆に近づきすぎる人は、肩甲骨の後退(内転)を強めすぎて胸郭回旋を止め、結果として上腕の挙上角度が出ず、低いトップを“固めて”作っていることがあります。
ここまでくると、P4の手元は「ここに置け」ではなく「この協調を達成した結果、そこに収束する」と捉えるほうが、再現性も安全性も上がります。近年の肩甲骨運動の研究では、健常者でも肩甲骨運動のばらつきが大きく、単一の黄金比で説明しきれないことが繰り返し示されています。だからこそゴルフでは、“比率”を追うより、胸郭回旋と肩甲骨の三次元運動が噛み合っているか、上腕骨が外旋を伴って滑らかに挙上できているか、痛みや詰まりがないか、そしてP4から切り返しで余計な共同収縮が増えていないか、という機能面のサインを優先したほうが合理的です。
P10のP4は、トップの静止画を美しくする競技ではありません。P4は切り返しのための“余白”であり、手元の三次元座標は、その余白が確保できたかどうかの通知表です。肩甲骨が胸郭に対して気持ちよく回り、上腕骨が外旋を保ったまま挙上できると、手元は不思議なほど「高すぎず、低すぎず、近すぎず、遠すぎない」場所に落ち着きます。そこから先は、クラブを振るのではなく、協調運動を壊さずに加速させるだけです。P4の手元を決める主語を“腕”から“肩甲骨と胸郭”に戻す。これが、上肢運動連鎖を起点から整える最短ルートになります。