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人間の身体は“縦振り”を好み、ゴルフは“横振り”を要求する理由

人間の身体は本来、縦方向の動作に最適化されています。階段を上る、荷物を持ち上げる、椅子から立つ、歩く──これらの動きはすべて、上下方向の力発揮を中心とした運動です。筋骨格系の構造を見ても、大腿四頭筋や臀筋群、脊柱起立筋は垂直方向の支持と推進を得意とし、人間の神経系はこれらの動作を日常的に繰り返すことで精緻に最適化しています。このため、縦の力発揮は学習コストが低く、感覚的にも理解しやすいという特徴があります。

しかしゴルフスイングは、人間が本能的には選ばない「横方向の高速回旋運動」を要求します。これは日常動作とは根本的に異なる運動様式であり、神経系にとって非日常の刺激です。結果として、初心者ほど“当てにいく縦振り”に戻りやすく、横振りの習得に苦戦します。この背景には、運動生理学・バイオメカニクス・神経科学の複数の要因が絡み合っています。

まず、ゴルフスイングは水平面での回旋運動が中心であり、垂直方向の運動とは力学構造が全く異なるという点が重要です。縦方向の動作では関節トルクの発揮は比較的単純で、力を地面に対して“押す”運動を繰り返すだけで効率的に推進力を生み出すことができます。一方で横振りのスイングでは、骨盤・胸郭・腕・クラブのセグメントが時間差を伴いながら回旋し、連鎖的に角運動量を増加させていく必要があります。これは「キネマティックシーケンス」と呼ばれ、各部位の回転速度のピークが厳密にずれて発生しないと最大効率が得られません。縦振りではこのような複雑な制御は必要なく、神経系は比較的容易に運動プログラムを作れます。初心者が“縦に振れば当たる気がする”と感じるのは、神経システムの合理的な反応なのです。

さらに、横方向の回旋運動は固有受容感覚の精度向上が不可欠であり、学習コストが高いという点も見逃せません。回旋運動では、胸郭のねじれ角度、骨盤の回転速度、腕の軌道、クラブの慣性モーメントなど、多数の情報を神経系が統合して制御する必要があります。日常では強い回旋を高速で行う機会がほとんどないため、固有受容器はこの運動を初期状態では正確に捉えられず、脳内の運動モデル(Internal Model)も不完全です。そのため、初心者がスイング中に「どこがどう動いているかわからない」「真横に振っているつもりが実は縦軌道になる」と感じるのは、感覚統合の未熟さから生じる自然な現象です。

加えて、縦方向の動作は重力場に沿った力発揮であるのに対し、横方向のスイングは重力を利用しにくいという力学的問題も存在します。縦振りでは重力による加速度が味方になるため、筋力+重力で効率的な力発揮ができます。ところが横振りでは、重力はスイングプレーンに対して垂直方向に働き、加速には寄与しません。このため神経系は筋力発揮の高度なタイミング調整を必要とし、感覚的には「頑張っているのにうまく振れない」状態が生じやすいのです。

最後に脳が“安定した姿勢”を優先する本能も横振りを難しくしています。回旋運動は身体の支持基底面に対して不安定性を生みやすいため、大脳基底核は安全側に倒れる指令を出しやすく、その結果スイングは“縦に逃げる”形になりがちです。胸を早く開いてしまう、突っ込む、腕で下に叩きにいくといった典型的なエラーは、この防御的運動プログラムの副産物と言えます。

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