ゴルフスイングは非常に複雑で全身の協調運動を要する動作であり、特に体幹部の安定性、すなわち「コアスタビリティ」がスイング効率や障害予防に大きく寄与することが知られています。コアスタビリティとは運動連鎖の中で四肢末端に最適な力と動きの産生、伝達、制御を可能とする骨盤ー体幹の位置と動きを制御する能力であり、内的な姿勢制御と外的な重力制御との最適なバランスを保つために必要不可欠な要素です。
実際、体幹部の筋機能、特に腹横筋や内腹斜筋といった深層筋群は、脊柱の安定性に強く関与しており、これらの筋が収縮することで腹腔内圧が高まり、体幹の剛性が増し、下肢からの地面反力を上半身へと効率よく伝える機能を果たします。これにより、スイングに必要な回旋動作や加速・減速の制御が可能となるのです。
文献的にも体幹筋の活動とゴルフパフォーマンスの関係は多数報告されており、たとえばKang(2012)は、プロゴルファーとアマチュアゴルファーを比較した研究の中で、プロのほうがスイング中により高い腹横筋の活動を示していることを報告しています。この結果は、技術的な熟練度と深層筋のリクルートメントとの関連性を示唆するものであり、コアスタビリティの向上がパフォーマンスを支えている証拠とも言えます。
さらに体幹の安定性が損なわれると、スイング中の回旋軸がブレやすくなり、腰椎や仙腸関節に過度な負荷が集中し、腰痛のリスクを高めることがわかっています。HoseaとGarrick(1989)はゴルファーの腰痛が特にフィニッシュ動作時に多く生じることを報告しており、これは体幹の安定性が不十分な状態で無理な回旋が加わることで腰部の組織がストレスを受けるためと考えられています。
一方で、体幹筋群の過剰な緊張もまた動作を妨げる要因となり得ます。本来、体幹の筋群は固定筋として働くだけでなく、四肢の動きに合わせてタイミングよく制御される必要があります。AguinaldoとEscamilla(2019)は、コア筋群がスイング中に「先行的に」活動する、いわゆるfeedforward制御の役割を果たしていることを報告しており、これは動作開始前に体幹の安定性を確保し、その後の高速運動に備える重要な神経制御機構です。
また、体幹の可動性と安定性の両立が必要であり、特に胸椎の回旋可動域と腰椎の安定性という関係は「ゴルファーの腰を守る鍵」として注目されています。Sahrmann(2002)は、腰椎は構造上、屈曲伸展にはある程度対応できるが、回旋には不向きであり、本来の回旋動作は胸椎が主に担うべきであると述べています。このため、胸椎の柔軟性を確保しながら、腰椎を過度に回旋させないコア制御戦略が必要になります。
これらの科学的知見をふまえると、ゴルフスイングにおいてはまず体幹の深層筋群の機能評価とトレーニングが重要であることがわかります。具体的には、腹横筋や内腹斜筋の選択的収縮を促すエクササイズ(たとえばドローインやブレイシングなど)を取り入れつつ、胸椎の回旋可動域を高め、腰椎の過剰な回旋を避けるようなモーターコントロールの獲得が推奨されます。ゴルフスイングの精度と再現性、さらには障害予防の観点からも、コアスタビリティの獲得は極めて重要な要素です。スポーツ現場においては、単なる体幹トレーニングにとどまらず、動作パターン全体の中での体幹筋のタイミングや協調性、そして可動性とのバランスを評価・強化する包括的なアプローチが求められているのです。