P10システムのP4は、切り返し直前、いわゆるトップ・オブ・スイングの局面です。ここは「腕が上がった瞬間」ではなく、むしろ“回旋の設計図が完成した瞬間”と捉えたほうが本質に近いです。なぜならP4の胸郭回旋角と骨盤回旋角が、その後の加速の仕方、クラブの下り方、そしてインパクトでの再現性までを、ほぼ決めてしまうからです。
一般に、アドレスからの骨盤回旋角は40〜50度、胸郭回旋角は90〜100度が典型値として語られます。もちろん個体差はありますが、P4でこの“差”が生まれることで、体幹の捻転(いわゆるX-factor)が形成され、切り返し以降のエネルギー移送の土台になります。ここで誤解しやすいのは「胸郭はたくさん回れば回るほど良い」という発想です。実際のパフォーマンス研究では、回旋角そのものよりも、回旋が“どこで起きているか”、そして“どのタイミングでほどけるか”が重要だと繰り返し示唆されています。つまり、胸郭が回っているように見えても、それが腰椎の代償回旋だった場合、P4は出来ているのにP5以降で失速したり、腰背部に負担が集中したりします。
回旋角を正確に知るには、3D motion captureのような三次元動作解析が最も信頼できます。骨盤と胸郭に置いたマーカーの空間座標からセグメント座標系を作り、アドレスを基準に相対回旋角を算出する。ここで大切なのは、数値を“目標値”として盲信するのではなく、「その角度を、呼吸と姿勢と荷重の中で保てているか」を見ることです。P4で胸郭回旋が90度出ていても、肋骨が持ち上がり、胸椎が伸展できずに胸郭が“反って”稼いだ回旋なら、切り返しでリブケージが崩れ、クラブは外から下りやすくなります。角度は同じでも、質が違うのです。

この“質”を決めるのが、あなたが挙げた制限因子です。解剖学的には、胸椎と腰椎の椎間関節面の向きがそもそも違います。胸椎は回旋に比較的向き、腰椎は回旋より屈伸や側屈に向く。さらに肋骨は胸郭を構造的に安定させる一方、回旋の自由度を「安定と引き換えに」制御します。だから胸郭回旋を伸ばしたいなら、腕をねじる前に、胸椎伸展と肋骨の可動性、そして呼吸による肋骨の拡張が欠かせません。P4で胸が詰まって見える選手は、回旋不足ではなく“伸展不足のまま回そうとしている”ことが多いです。
神経筋的制限因子も、P4の形を静かに支配します。ハムストリングスの硬さは骨盤前傾を邪魔し、アドレスの前傾が浅くなるか、逆に腰椎を丸めて帳尻を合わせます。するとP4で骨盤回旋は出ているように見えても、実態は骨盤が回ったのではなく、骨盤が後傾しながら“逃げた”回旋になり、切り返しで下半身が踏ん張れません。腸腰筋の長さや機能も同様で、股関節伸展が制限されると、トップからの移動局面で骨盤が前に出る、いわゆるエクステンション傾向が強くなり、胸郭回旋がほどける前に骨盤がほどけてしまいます。結果としてP5で上体が突っ込み、クラブが寝る、もしくは上から入る、といった二択に追い込まれます。
ではP10のP4として、何を“良い形”とみなすべきでしょうか。私のおすすめは、角度を追う前に「骨盤と胸郭が別々に回っているのに、体幹が分断されていない」状態を狙うことです。言い換えると、骨盤が40〜50度回っていても股関節の内外旋で受け止められ、胸郭が90度前後回っていても胸椎伸展と肋骨の動きの中に収まっている。P4で腹圧が抜けず、肋骨が開きすぎず、肩甲帯が“上がる”のではなく“乗る”。この条件が揃うと、切り返しで先に骨盤が戻り始めても、胸郭は一拍遅れてついてきて、いわゆる分節的な回旋の連鎖が自然に起きます。近年の海外研究が繰り返し強調するのも、まさにこの「セグメント間のタイミング」と「地面反力を受ける準備」の重要性です。

実践的には、P4で「胸郭を回す」の指示より、「胸椎を伸ばしてから回す」「肋骨を広げたまま回す」「骨盤は回しても股関節の上に乗せたまま」という順序のほうが、再現性が上がります。可動域を増やすストレッチやモビリティは手段として有効ですが、P4の課題の多くは“角度が足りない”より“角度の作り方が粗い”ことにあります。胸郭回旋角が十分でも、胸椎伸展可動域が乏しければ、回旋は側屈や腰椎回旋で代償され、キネティックチェーンは途切れます。逆に胸椎伸展が出てくると、同じ90度でもクラブが収まる場所が変わり、ダウンスイングの最初の一手が楽になります。
P4は、力を溜める場所であると同時に、力の通り道を整える場所です。骨盤40〜50度、胸郭90〜100度という数字は“地図”であって、“目的地”ではありません。あなたの体の解剖学的な設計と、ハムストリングス、腸腰筋、胸椎伸展といった神経筋的条件が、P4の地形を決めています。その地形に合った回旋を作れたとき、P10の流れは途切れず、P5以降の加速が「頑張る」から「勝手に加速する」へ変わっていきます。P4を美しくするとは、トップを止めることではなく、回旋の器を整えて、次の動きが自然に起こる状態を作ることなのです。