ゴルフスイングにおけるP10システムでは、P2、すなわちアドレス直後からシャフトが地面とほぼ平行になるまでの初期局面が、その後のすべての運動を規定する極めて重要なフェーズとして位置づけられています。この段階は一見すると動きが小さく、結果への影響も限定的に思われがちですが、実際には運動制御・バイオメカニクス・運動学の観点から見て、最も「誤差に敏感」な区間だと言えます。P2で生じたわずかなズレは、後続局面で連鎖的な代償動作を誘発し、最終的にはインパクトでの再現性を著しく低下させます。
P2は、スイングにおける運動プログラムの初期条件が確定する局面です。中枢神経系は、スイング開始前におおよその運動計画をフィードフォワード的に構築していますが、P2付近ではまだそのプログラムが修正可能な「境界領域」にあります。ところが、ゴルフスイングは高速運動であり、感覚フィードバックに基づく修正には神経生理学的な時間遅延が存在します。そのため、P2で生じたエラーは、視覚や固有感覚によって即座に修正されるのではなく、無意識下での運動調整、すなわち代償動作として後続フェーズに持ち越されます。

典型的な例が、P2でのフェース角の過剰な開きです。ここでフェースが想定よりも開いた状態になると、中枢神経系は「このままでは目標方向に当たらない」という内部予測誤差を検出します。しかし、その修正はP2そのものではなく、P3からP4にかけてのフェーズで行われます。このとき生じるのが、前腕の過度な回内や手関節の屈曲・尺屈といった代償動作です。これらは一時的にはフェース角をスクエア方向に戻すように見えますが、同時にクラブと身体セグメント間の力学的整合性を崩してしまいます。
バイオメカニクス的に見ると、P2はクラブ質量と身体各部位との相対配置が決定される局面です。クラブは質量と慣性モーメントを持つ剛体であり、その挙動は角運動量の保存則やトルク生成の効率に強く依存します。P2でクラブが過度に内側や外側に引き込まれると、クラブの回転軸と身体の回転軸のズレが生じます。このズレは、P3以降で角速度を高めようとした際に、余分な補正トルクを必要とします。その結果、スムーズな運動連鎖ではなく、断続的で不安定な力の伝達が発生します。
運動学的な視点では、P2は自由度の「固定」が始まる局面とも言えます。人間の身体は多数の自由度を持つ冗長なシステムですが、巧みな運動では、必要な自由度のみを選択的に活用し、不要な自由度を抑制します。P2で誤ったクラブ軌道やフェース角が形成されると、脳は本来抑制すべき自由度を後半で再び解放せざるを得なくなります。これが、いわゆる代償動作の連鎖であり、運動制御理論ではエラー増幅メカニズムとして説明されます。
このエラー増幅メカニズムの厄介な点は、修正しようとする行為そのものが、新たなエラー源になることです。P3やP4でフェースを戻そうとする操作は、上肢主導の局所的な制御になりやすく、本来下肢・体幹から上肢へと流れるべき運動連鎖を分断します。その結果、P5からP6にかけてクラブヘッドのプレーンが不安定になり、インパクト直前での微調整がさらに必要になります。しかし、インパクト直前はすでにフィードバック制御がほぼ不可能な時間帯であり、最終的な当たりは偶然性に大きく左右されます。

重要なのは、これらの代償動作が「意図的」ではなく「無意識的」に生じる点です。プレーヤー本人は、P2でのエラーを自覚していないことがほとんどであり、結果として「トップで合わせた」「切り返しで調整した」という主観的感覚だけが残ります。しかし実際には、P2での初期条件の乱れが、スイング全体を通じてエネルギー効率と再現性を蝕んでいるのです。
P10システムがP2を重視する理由は、まさにこの代償動作連鎖を未然に防ぐ点にあります。P2でクラブフェース、シャフトプレーン、身体セグメントの相対関係が適切に整っていれば、その後のスイングはフィードフォワード制御だけで完結しやすくなります。つまり、余計な修正を必要としない「自己組織化された運動」が成立します。この状態では、P6やインパクトでの再現性が高まり、結果としてショットの安定性が向上します。
P2は単なる準備動作ではなく、スイング全体の運命を決定づける初期条件設定のフェーズです。ここでの小さなエラーは、後半での大きな代償を強制し、エラー増幅メカニズムを通じて結果を不確実なものにします。逆に、P2での正確な運動実行は、代償動作を必要としないシンプルで効率的なスイングを可能にします。P10システムにおけるP2の重要性は、技術論ではなく、人間の運動制御の本質に根ざした必然だと言えるでしょう。