P10システムにおけるP3は、左腕がバックスイング中盤で挙上され、クラブがプレーン上に安定して乗り始める局面ですが、この局面を単なる「腕の位置」として捉えると、スイングの本質を見誤ります。P3で左肩関節に起きている現象は、外転・水平外転・内外旋という三次元運動の集合ではあるものの、その実体は「関節の自由度を失わずに、後半で破綻しない配置へ入るための準備段階」にあります。ここでは可動域を拡張すること自体よりも、可動域を安全に使える関節内条件を整えることが支配的な意味を持ちます。
まずP3における外転運動を考えると、左上腕はおおよそ90度近くまで挙上されますが、この挙上が肩甲上腕関節単独で行われることは生体力学的に成立しません。腕を上げる過程では、肩甲骨が胸郭上で上方回旋や後傾を伴いながら動き、上腕骨頭に対して関節窩の向きを変えることで、上腕が通過する空間を確保します。いわゆるスキャプラヒューマラル・リズムは固定比率ではなく、速度や負荷、個体差によって変動しますが、共通して言えるのは、肩甲骨の追従が遅れるほど、上腕骨頭側に代償が集中するという点です。P3で左肩が「詰まる」感覚が出る場合、多くは外転角そのものではなく、肩甲骨が十分に関節面を向け替えられていないことが原因になります。

このとき肩関節内で重要になるのが、回旋筋腱板による上腕骨頭の中心化です。棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋からなる回旋筋腱板は、回旋運動を生み出す筋群であると同時に、上腕骨頭を関節窩に圧着させることで安定性を確保する役割を担います。外転時には三角筋が強い上方剪断力を生じさせますが、腱板が協調的に働くことで、この剪断成分は関節窩方向への圧縮力へと再配向されます。P3においてこの中心化が成立していれば、上腕は大きな可動域を保ったまま、関節内のストレスを増やさずに挙上されます。逆に中心化が破綻すると、上腕骨頭は上方や前方へ偏位し、外転と水平外転、回旋が組み合わさった瞬間に、関節内で衝突や不安定性が生じやすくなります。
P3で観察される水平外転も、腕そのものを後方へ引く運動と考えると理解を誤ります。この局面で本質的に起きているのは、体幹の回旋によって胸郭全体が回り、左肩帯が相対的に背側へ運ばれることです。その上で肩甲骨が胸郭上を滑走し、上腕がスイングプレーンに沿った位置へ収まります。つまり、水平外転は胸郭回旋と肩甲骨運動が作る相対配置の結果であり、上腕単独の後方移動ではありません。この順序が逆転し、胸郭回旋が不足したまま腕だけで水平外転を作ろうとすると、前方組織の張力が過剰になり、関節包や腱板に不利なストレスが集中します。
この胸郭回旋と肩甲骨追従が揃った状態では、上腕骨の内外旋が初めて意味を持ちます。P3における内外旋は、フェース角を直接操作する動作ではなく、フェース管理が行いやすい前提条件を作る運動です。上腕骨頭が中心化された状態では、上腕は軸回旋の自由度を確保でき、その結果として前腕回内外や手関節運動が自然な範囲で機能します。これによりフェースはプレーンに対して穏やかに整流され、切り返し以降で急激な操作を必要としません。一方で、中心化が崩れた状態では、上腕回旋は制限され、回旋の自由度は末梢側、すなわち前腕や手関節に押し付けられます。この代償が、P3以降でのフェースの急激な開閉や、クラブが寝る・立つといった不安定な挙動として現れます。

さらにP3では、前鋸筋を中心とした肩甲帯筋群の役割が極めて重要になります。前鋸筋は肩甲骨を胸郭に安定させながら上方回旋を助け、上腕挙上時の土台を作ります。この安定があることで、回旋筋腱板は本来の中心化機能を発揮でき、上腕骨の三次元運動は滑らかに統合されます。P3で左肩が重く感じたり、腕が上がり切らない感覚が出る場合、しばしばこの肩甲骨の支持機構が破綻し、上腕側で無理に形を作ろうとしていることが背景にあります。
このように見ていくと、P3はトップを作るための通過点ではなく、切り返し以降の高速運動に耐えうる関節条件を先に整える局面だと理解できます。バイオメカニクス的には、P3は後半で角速度や角運動量を高めるための拘束条件設定のフェーズであり、ここで自由度が整理されているほど、後半でクラブと身体は暴れません。P10システムにおいてP3が重要視される理由は、見た目の形ではなく、肩関節内部で中心化と可動性が両立した「壊れにくい配置」を作れるかどうかにあります。
P3での左肩関節運動は、外転・水平外転・内外旋という表層的な三次元運動の背後で、胸郭回旋による空間形成、肩甲骨の追従による関節面調整、回旋筋腱板による中心化、そして上腕回旋によるフェース管理の前提条件設定という多層構造として成立しています。この連鎖が揃ったとき、P3からP4への移行は静かで再現性の高いものとなり、フェースは手先に依存せずに管理されます。逆にどこか一層でも破綻すると、P3の段階ですでに、後半で破綻する運動連鎖が仕込まれてしまうのです。