P10システムのP4は、いわゆるトップの局面ですが、ただ「捻る場所」ではありません。ここでの本質は、骨盤を“固める”ことでも、胸郭を“無理に回す”ことでもなく、「近位を安定させながら遠位を自由に動かす」という運動制御の原則を、スイング速度に耐える精度で成立させることにあります。Xファクターは結果として現れる回旋差であって、狙うべきは角度そのものより、角度を生む神経筋の仕事ぶりです。
まずP4で起こしたいのは、右股関節で荷重を受け止めた状態で、骨盤の過剰な回旋・スウェイ・前傾崩れを抑え、胸郭(胸椎)側の回旋を確保することです。ここで重要なのが「骨盤の相対的安定性」という言い方です。静止ではなく、微細な揺らぎを許容しながらも、回旋の主役を骨盤に渡さない。右股関節周囲、とくに殿筋群や深層外旋筋群、内転筋群、体幹深部(腹横筋や多裂筋など)が、関節を“位置で止める”のではなく“関節を守る方向に張力を配る”ことで、骨盤は静かに安定します。いわば、可動性のある剛性です。
この安定を支える代表が同時収縮(co-contraction)です。多くの人は「力を抜け」と言われますが、P4に必要なのは脱力ではなく、必要な場所に必要な張力が“薄く広く”張っている状態です。股関節でいえば屈筋と伸筋、内転と外転、内旋と外旋が一方的に勝たないように、拮抗筋同士が同時に働いて関節中心を保ちます。共収縮は一見すると効率が悪そうですが、高速運動においては関節を安定させ、次の加速局面で関節が「ズレてから戻る」ロスを減らします。トップで右股関節が受け止め切れずに骨盤が先に回る人は、力が弱いというより、共収縮のタイミングと配分が粗いことが多いです。必要な張力が“ピンポイントで強すぎる”か、“入るのが遅い”。どちらも骨盤の微細な破綻につながります。

一方で、共収縮だけでは胸郭が回りません。ここで相反抑制(reciprocal inhibition)が効いてきます。相反抑制は、主働筋が働くと拮抗筋が自動的に抑えられ、動きが滑らかになる仕組みです。P4の胸郭回旋でいえば、回旋を担う腹斜筋群や胸椎周囲の筋群が適切に駆動し、同時に“回旋を邪魔する筋緊張”が抜けていく必要があります。典型的なのは、広背筋や大胸筋、首肩周りの過緊張が胸郭の回旋を止めてしまうケースです。本人は「捻っているつもり」でも、実際には肩甲帯を固めて腕でトップを作り、胸椎が回っていない。こうなるとXファクターは数字上作れても、回旋差が“伸張反射や反動”として次局面に乗りません。相反抑制が働かず、ブレーキを踏みながらアクセルを踏むような状態になるからです。
面白いのは、共収縮と相反抑制は対立概念に見えて、P4では両方が必要だという点です。右股関節・骨盤周りは共収縮で安定させ、胸郭の回旋は相反抑制で解放していく。つまり、同じ身体の中で「固めたいところ」と「抜きたいところ」を同時に成立させる。ここに運動制御の難しさがあります。さらに言えば、P4では“止める”より“止め続ける”ことの方が難しい。トップは一瞬ではなく、切り返しに向けた準備の連続で、微妙な加速度変化の中で安定性を保つ必要があるからです。
このとき脳と神経系は、単純な筋力発揮ではなく、予測制御(フィードフォワード)と誤差修正(フィードバック)を組み合わせます。高速スイングでは感覚入力だけで間に合わないため、事前に「この速度で回すなら、ここにこれだけ張力を置く」というプログラムが必要になります。海外研究でも、熟練者ほど体幹・骨盤周囲の筋活動が“早めに立ち上がり”、切り返し前後のタイミングが安定しやすいことが示唆されています。これは筋活動が多い少ないではなく、オンにする順序と、オフにする順序が整っているという意味です。P4で胸郭が回る人は、右股関節が先に「受け止める準備」を完了しており、その上で胸郭が安心して回れる。逆に言えば、股関節の準備が遅い人ほど、胸郭を回すために上半身を固め、結果として相反抑制が効かず回旋が詰まります。
P4のXファクター形成を“見た目”で追うと、骨盤が止まり胸郭だけが回る図になりますが、身体の中ではもう少し複雑です。右股関節は、受け止めながらも微細に内旋・外旋、屈曲、内転外転のバランスを変え、骨盤の位置を保ちます。体幹は、腹斜筋群が回旋の主役になりつつ、腹横筋や多裂筋が「回旋の軸」を作り、胸椎の椎間ごとの分節運動を助けます。ここで分節が失われると、胸郭はひと塊になって回りにくくなり、代わりに腰椎や肩甲帯が動いて帳尻を合わせにいきます。腰に張りが出るタイプの人がP4で“捻り過ぎ”と言われる背景には、胸椎が回らないのに回旋差だけ欲しくて、腰椎で作ってしまう現象がよくあります。運動制御の言葉で言えば、目的(回旋差)を達成するために、許容されていない自由度(腰椎)を動員している状態です。

ではP4で「良い共収縮」と「良い相反抑制」を同居させるには何が目印になるか。私が現場で一番信用するサインは、トップで“呼吸が止まっていない”ことです。呼吸が止まる人は、体幹を硬い殻として固め、胸郭の分節運動を自分で封じがちです。逆に、吐く息が細く続いている人は、必要な張力を保ちながらも、不要な緊張が抜ける余地があります。呼吸は横隔膜を介して体幹の圧と姿勢制御に直結するので、P4の制御が粗いと真っ先に影響が出ます。もう一つのサインは、右股関節に「刺さるような一点の詰まり」ではなく、「面で受けている感覚」があるかどうかです。前者は局所の筋が過剰に働き、共収縮が“狭く強い”方向に偏っている可能性が高い。後者は複数筋群で負荷を分散し、関節中心を保てている可能性が高いです。
P4は、力の強さを競う場面ではなく、制御の精度を競う場面です。骨盤の相対的安定性が立ち上がり、胸郭が解放されて回る。この順序が整うほど、Xファクターは自然に形成され、切り返しでは“溜めがほどける”のではなく、“溜めが推進力に変換される”感覚が出ます。数字や形を真似るより、共収縮の質を整え、相反抑制が働く余地を作る。P4をそう捉え直すと、トップは「止める場所」ではなく、「次の加速を起動するために神経系を整える場所」になっていきます。