ゴルフスイングで悩んでいる人の中には、「なぜスライスが出るんだろう」「思ったより飛ばない」と感じている方も多いと思います。その原因の一つに、アーリーリリースという現象があります。アーリーリリースとは、ダウンスイングの途中で手首の角度、いわゆるコックが早くほどけてしまう動きのことを指します。理想的なスイングでは、手首の角度をできるだけ長くキープし、インパクトの直前で一気にクラブヘッドを解放することで最大限のスピードを生み出します。しかし、アーリーリリースが起こるとそのタイミングが早すぎて、クラブフェースが開いた状態でボールに当たりやすくなり、結果としてスライスや飛距離不足などの問題が出やすくなるのです。
この現象については、いくつかの研究でも違いがはっきりと示されています。MacKenzie & Sprigings（2009）の研究では、プロや上級者は手首のコックをダウンスイング後半まで維持し、インパクトの直前でリリースすることでヘッドスピードを最大化していることが明らかになっています。また、Kwon（2013）の報告でも、手首の動きがクラブヘッドの加速に大きく関わっていることが示されており、アーリーリリースが起こると力が分散されてしまい、効率よくスピードが出なくなることが分かっています。さらに、Han（2019）の研究では、初心者と上級者を比較したところ、P6と呼ばれるポジション（クラブが右太ももの前にある場面）でのクラブの傾きが上級者ほど適正であり、コックが保たれている傾向が見られました。
アーリーリリースが起こることで生じる問題は、単に飛距離が落ちるというだけではありません。クラブヘッドの最下点がボールの手前になりやすくなるため、アイアンではダフリやトップの原因にもなります。また、バンスが地面に当たりやすくなるため、特に硬い地面ではクラブが弾かれやすく、ショットの安定性が大きく損なわれる可能性があります。入射角も不安定になり、結果として球筋や弾道が安定せず、狙った距離感を出すのが難しくなることもあるのです。
では、なぜアーリーリリースが起こるのでしょうか。原因はさまざまですが、よくあるのはグリップの圧力が強すぎたり、スイング中に下半身の動きが弱く、腕だけでクラブを振ろうとしてしまう場合です。特に右手の力が強すぎると、リリースのタイミングが早くなりやすく、キャスティングという動作が生じてしまいます。また、スイングプレーンが適切でないと、クラブの軌道が乱れやすくなり、結果的にアーリーリリースが起こる要因にもなります。
この動きを改善するためには、まずP6でのクラブの位置を意識することが大切です。P6とは、クラブが右太ももの前にあるポジションのことですが、このときクラブシャフトが地面とほぼ平行で、クラブヘッドが手元よりも低い位置にあるのが理想です。もしこの段階でクラブヘッドが高くなっていたら、すでにアーリーリリースが起こっている可能性が高いです。また、ダウンスイングでは左手でクラブを引きつけるように動かし、右手は後からついてくるように意識すると、タメを保ちながらインパクトの瞬間に力を解放しやすくなります。
さらに効果的な練習方法として、ハーフスイングの練習が挙げられます。P6からフォロースルー前半にあたるP8までの範囲で、コックを維持したまま振る練習を繰り返すことで、正しいリリースのタイミングを身体に覚え込ませることができます。最初はスプリットハンド、つまり左右の手を少し離して握るスタイルで始めると、手首の動きを感じやすくなり、その後通常のグリップに戻すことで自然なスイングに繋げていくことができます。
また、フォロースルー時に右足の踵がしっかり上がっていない場合も、体の回転が止まり、腕の振りが先行してしまう原因になります。体全体の回転リズムを保つためにも、フィニッシュでしっかりと右踵が浮いている状態を作ることが重要です。
ただし、アーリーリリースがすべて悪いというわけではありません。特にヘッドスピードがそれほど速くないゴルファーにとっては、やや早めのリリースがかえって飛距離を伸ばすことに繋がるケースもあります。大切なのは、自分のスイングタイプに応じてリリースのタイミングを適切にコントロールすることです。
スイングの効率や安定性を高めるには、自分の動きを客観的に確認し、必要に応じてスイング修正やトレーニングを取り入れることが欠かせません。研究からも示されているように、手首の角度を保ちながら適切なタイミングでリリースを行うことは、飛距離とショットの再現性の両面で非常に重要な要素であるといえます。
